2010年 05月 19日
アフリカの異端児(アフリカを歩く7) |
『偉大なる天の邪鬼(あまのじゃく)』
もちろん僕のことではない。僕は「小心なヘソ曲がり」だ。
偉大なる天の邪鬼とは、エチオピアのこと。エチオピアはアフリカの異端児。
僕が旅したケニア、タンザニア、ウガンダ、エチオピアの東アフリカ4カ国の中で、エチオピアだけが極端に違う。なんでこんなに違うのかと呆れるぐらい。
まるで「俺たちは意地でも他の国とは違うことをやるぞ!」と決意したかのようだ。
では具体的にどう違うのか、以下に挙げてみます。
・言葉と文字が違う
ケニア・タンザニア・ウガンダは英語かスワヒリ語が共通の公用語だし、文字もABCのアルファベットなのでかなり理解しやすい。しかしエチオピアは世界でこの国のみ使われるアムハラ語(公用語)とアムハラ文字を使う。これがまた手に負えない。
写真の看板をご覧ください。顔以外はすべてアムハラ文字です。 独自の言語と文字を持つことは素晴らしいことだけど、旅行者にとっては難儀だ。
・歴史が違う
エチオピアは長い歴史を誇り、アフリカで唯一植民地にもなっていない国。
しかも一時支配された国がイタリアなので、イギリス、フランスの植民地が多いアフリカでは異質。料理や街並みにもイタリア色がある。
・料理が違う
世界一インパクトの強い絶句主食インジェラ(アフリカを食べるエチオピア編参照)イタリア料理の浸透など、周辺他国とは笑うほど違う。
写真は激辛のバグワット(チキンのシチュー)とボロ布のような主食のインジェラ。
・音楽が違う
エチオピアの音楽は日本の演歌や民謡とソックリで、歌いながらこぶしを回す回す。彼らにも日本の音楽は親しみやすいようで、一時は北島三郎が人気があったらしい。
・宗教が違う
エチオピアは、ギリシャ正教などと近い流れの「エチオピア正教」という、世界でも独特の古いキリスト教を信仰する。現在ではイスラム教徒も多いが、基本的には異色のキリスト教国と言える。「失われたアーク」はエチオピアにあるという説もある。
・人種と民族性が違う
エチオピアには約80の民族がいるが、黒人ではなく褐色で細面で彫りが深い。
一般的には控えめで親切な人も多いのに、客引き、物売りなど商売の連中は、アクが強くてしつこくて口八丁で相当に手強い。他の3国の黒人たちは、商売でもどこか淡白で根気が無くノンビリしているから、エチオピアの特殊性が際立つ。
日本で言えば、岩手と山形と宮城の東北3県に大阪が隣接しているようなものだ。
ケニアから陸路で国境を越えて、エチオピアに入国した時のこと。
間髪入れずに次々と人相の悪い連中が寄って来て「ウエルカム!」と握手を求めてきた。彼らはホテルや闇両替から、娼婦、ドラッグまでの斡旋で商売をしている客引きで、詐欺行為も多いという。とにかくつきまとって離れないし、「俺たちを無視していいのか?」なんて脅しめいたことも言ってくる。
初めての土地で地理も判らず、大きなバックパックを背負っているので動きも悪い。まさに飛んで火にいる日本人。その手の輩には慣れている僕も、久々に頭がグルグルになって身の危険を感じた。
客引きの中でも特に頑強で凶暴だったのが、大柄なドレッドヘアーのラスタ男。
何度拒否しても執拗につきまとい、しまいには僕の前に立ちはだかって声を荒げた。
「日本人は必ずそうだ。俺達が紳士的に友好的に接しているのに、無礼な態度で無視する。お前達はアフリカ人を人種差別してるだろう。差別は絶対に許さんぞ!!」
今にも摑みかからんばかりの勢いだ。明らかに脅し作戦。正直ビビったし、「人種差別」という言葉に引け目を感じて、ひるんでしまいそうになる。しかしそれがラスタの狙いで、ここで屈したらアウト。かと言って逃げ切ることも難しい。
ここはなんらかの反撃に出ねば…。僕は腹を据えて逆ギレ気味にまくしたてた。
「紳士的だと言うなら、なぜ断っている俺にいつまでもつきまとうんだ。それは無礼な行為じゃないのか?お前こそ日本人を差別してるだろう!」
ラスタは一気に弱気になって「そんなことはない」と言いながら、いつの間にかフェイドアウトしていった。
意外だった。インドやエジプト、モロッコなど横綱級の手強い国なら、この程度の反撃など赤ちゃんの猫パンチ以下なのに、エチオピアでは致命傷となった。
僕はこのとき、何かエチオピア人の民族性からくる急所のような敏感な部分に触れたような気がした。彼らの敏感な部分とは、いったい何か?
その答えは皆さんで考えて…いただけるはずがないので、自分で考えました。
おそらく「プライド」です。
エチオピアは歴史が長く、独自性を保ってきているので、非常に誇り高い。
しかし現実はアフリカでも最貧国という貧しさ。つまり彼らの貧困の厳しさと誇りの高さが、客引きのしつこさと、それに相反するようなプライドの高さに現れているのではないか。プライドが高く「紳士たれ」という意識が強いから、無視されると異常に腹を立てるし、無礼だと指摘されると、くじけてしまうのだ。本来は非常に繊細でピュアな人々だと思う。
例えは悪いが、貧しさで仕方なく娼婦になり、次第にすれっからしになってしまったけれど、心までは売らないよ、みたいな。この急所が判ると彼らを撃退するのは決して難しくはない。僕はエチオピアではそれほど苦しめられなかった。
エチオピアはこんな具合に厄介な国だが、実はアフリカでも屈指の観光資源を誇る。平均標高1,000m以上、最高峰4.620mという雄大な山岳景観。数々の世界遺産の遺跡群。エチオピア正教の岩窟寺院や壁画。人類発祥の地とされる悠久のロマン。
いまなお特異な文化・風習を維持する様々な少数民族。等々。
その中でもラリベラという町は、壮大な自然の中に巨大な岩をくりぬいて作った類例のない世界遺産の岩窟教会(12世紀頃)が密集する、エチオピア最大の見所だ。
観光地にある寺院や教会など宗教的施設では、観光客からかなりあこぎに金をせびり取る俗物的な聖職者も多い。ましてや手強いエチオピアで最大の観光地ラリベラだ。どんな怪物が待ち構えているんだろうと武者ぶるいしていた。
ところが教会にいる修道僧たちは、驚くほど澄んだ目をしていて、撮影をお願いすると真摯に応じてくれるし、チップの額に関わらず誠実な感謝の意を示す。
正に信仰に身を捧げる神々しさが感じられた。これもまたエチオピアの一面だ。
またエチオピアの女性は美しく(フォトギャラリー「アフリカン・ウーマン」参照)特にエチオピア正教徒の女性がまとう白のショールは、イスラム教徒とは違ったテイストの清楚さと威厳が感じられて、魅惑的だ。
しかしエチオピアでは、敬虔で美しい女性達と怪しい娼婦達が、ボロボロのトタンづくりの長屋で隣り合って生活している。それは悲惨だけれども、不思議と清々しさを感じる光景だ。あまりにもピュアな現実がそこにあるから。
エチオピアはコントラストの国。聖と俗。誇り高さと貧しさ。はにかみと攻撃性。
肥沃と乾燥。キリスト教とイスラム教。
そしてエチオピアはアフリカの万華鏡。見る角度によってドラマティックに姿を変えそのどれもが鮮烈な印象を残す。
偉大なる天の邪鬼エチオピアを知ることで、アフリカの奥深さがわかる。
チャンスがあれば、ぜひ一度体験してみてください。ノミには十分気をつけてね。
(P.S)申し訳ありませんが、家の引っ越しのために少しの間ブログをお休みすることになりそうです。6月上旬には再開したいと思いますので、お待ちくださいね!
もちろん僕のことではない。僕は「小心なヘソ曲がり」だ。
偉大なる天の邪鬼とは、エチオピアのこと。エチオピアはアフリカの異端児。
僕が旅したケニア、タンザニア、ウガンダ、エチオピアの東アフリカ4カ国の中で、エチオピアだけが極端に違う。なんでこんなに違うのかと呆れるぐらい。
まるで「俺たちは意地でも他の国とは違うことをやるぞ!」と決意したかのようだ。
では具体的にどう違うのか、以下に挙げてみます。
・言葉と文字が違う
ケニア・タンザニア・ウガンダは英語かスワヒリ語が共通の公用語だし、文字もABCのアルファベットなのでかなり理解しやすい。しかしエチオピアは世界でこの国のみ使われるアムハラ語(公用語)とアムハラ文字を使う。これがまた手に負えない。
写真の看板をご覧ください。顔以外はすべてアムハラ文字です。
・歴史が違う
エチオピアは長い歴史を誇り、アフリカで唯一植民地にもなっていない国。
しかも一時支配された国がイタリアなので、イギリス、フランスの植民地が多いアフリカでは異質。料理や街並みにもイタリア色がある。
・料理が違う
世界一インパクトの強い絶句主食インジェラ(アフリカを食べるエチオピア編参照)イタリア料理の浸透など、周辺他国とは笑うほど違う。
写真は激辛のバグワット(チキンのシチュー)とボロ布のような主食のインジェラ。
・音楽が違う
エチオピアの音楽は日本の演歌や民謡とソックリで、歌いながらこぶしを回す回す。彼らにも日本の音楽は親しみやすいようで、一時は北島三郎が人気があったらしい。
・宗教が違う
エチオピアは、ギリシャ正教などと近い流れの「エチオピア正教」という、世界でも独特の古いキリスト教を信仰する。現在ではイスラム教徒も多いが、基本的には異色のキリスト教国と言える。「失われたアーク」はエチオピアにあるという説もある。
・人種と民族性が違う
エチオピアには約80の民族がいるが、黒人ではなく褐色で細面で彫りが深い。
一般的には控えめで親切な人も多いのに、客引き、物売りなど商売の連中は、アクが強くてしつこくて口八丁で相当に手強い。他の3国の黒人たちは、商売でもどこか淡白で根気が無くノンビリしているから、エチオピアの特殊性が際立つ。
日本で言えば、岩手と山形と宮城の東北3県に大阪が隣接しているようなものだ。
ケニアから陸路で国境を越えて、エチオピアに入国した時のこと。
間髪入れずに次々と人相の悪い連中が寄って来て「ウエルカム!」と握手を求めてきた。彼らはホテルや闇両替から、娼婦、ドラッグまでの斡旋で商売をしている客引きで、詐欺行為も多いという。とにかくつきまとって離れないし、「俺たちを無視していいのか?」なんて脅しめいたことも言ってくる。
初めての土地で地理も判らず、大きなバックパックを背負っているので動きも悪い。まさに飛んで火にいる日本人。その手の輩には慣れている僕も、久々に頭がグルグルになって身の危険を感じた。
客引きの中でも特に頑強で凶暴だったのが、大柄なドレッドヘアーのラスタ男。
何度拒否しても執拗につきまとい、しまいには僕の前に立ちはだかって声を荒げた。
「日本人は必ずそうだ。俺達が紳士的に友好的に接しているのに、無礼な態度で無視する。お前達はアフリカ人を人種差別してるだろう。差別は絶対に許さんぞ!!」
今にも摑みかからんばかりの勢いだ。明らかに脅し作戦。正直ビビったし、「人種差別」という言葉に引け目を感じて、ひるんでしまいそうになる。しかしそれがラスタの狙いで、ここで屈したらアウト。かと言って逃げ切ることも難しい。
ここはなんらかの反撃に出ねば…。僕は腹を据えて逆ギレ気味にまくしたてた。
「紳士的だと言うなら、なぜ断っている俺にいつまでもつきまとうんだ。それは無礼な行為じゃないのか?お前こそ日本人を差別してるだろう!」
ラスタは一気に弱気になって「そんなことはない」と言いながら、いつの間にかフェイドアウトしていった。
意外だった。インドやエジプト、モロッコなど横綱級の手強い国なら、この程度の反撃など赤ちゃんの猫パンチ以下なのに、エチオピアでは致命傷となった。
僕はこのとき、何かエチオピア人の民族性からくる急所のような敏感な部分に触れたような気がした。彼らの敏感な部分とは、いったい何か?
その答えは皆さんで考えて…いただけるはずがないので、自分で考えました。
おそらく「プライド」です。
エチオピアは歴史が長く、独自性を保ってきているので、非常に誇り高い。
しかし現実はアフリカでも最貧国という貧しさ。つまり彼らの貧困の厳しさと誇りの高さが、客引きのしつこさと、それに相反するようなプライドの高さに現れているのではないか。プライドが高く「紳士たれ」という意識が強いから、無視されると異常に腹を立てるし、無礼だと指摘されると、くじけてしまうのだ。本来は非常に繊細でピュアな人々だと思う。
例えは悪いが、貧しさで仕方なく娼婦になり、次第にすれっからしになってしまったけれど、心までは売らないよ、みたいな。この急所が判ると彼らを撃退するのは決して難しくはない。僕はエチオピアではそれほど苦しめられなかった。
エチオピアはこんな具合に厄介な国だが、実はアフリカでも屈指の観光資源を誇る。平均標高1,000m以上、最高峰4.620mという雄大な山岳景観。数々の世界遺産の遺跡群。エチオピア正教の岩窟寺院や壁画。人類発祥の地とされる悠久のロマン。
いまなお特異な文化・風習を維持する様々な少数民族。等々。
その中でもラリベラという町は、壮大な自然の中に巨大な岩をくりぬいて作った類例のない世界遺産の岩窟教会(12世紀頃)が密集する、エチオピア最大の見所だ。
観光地にある寺院や教会など宗教的施設では、観光客からかなりあこぎに金をせびり取る俗物的な聖職者も多い。ましてや手強いエチオピアで最大の観光地ラリベラだ。どんな怪物が待ち構えているんだろうと武者ぶるいしていた。
ところが教会にいる修道僧たちは、驚くほど澄んだ目をしていて、撮影をお願いすると真摯に応じてくれるし、チップの額に関わらず誠実な感謝の意を示す。
正に信仰に身を捧げる神々しさが感じられた。これもまたエチオピアの一面だ。
またエチオピアの女性は美しく(フォトギャラリー「アフリカン・ウーマン」参照)特にエチオピア正教徒の女性がまとう白のショールは、イスラム教徒とは違ったテイストの清楚さと威厳が感じられて、魅惑的だ。
しかしエチオピアでは、敬虔で美しい女性達と怪しい娼婦達が、ボロボロのトタンづくりの長屋で隣り合って生活している。それは悲惨だけれども、不思議と清々しさを感じる光景だ。あまりにもピュアな現実がそこにあるから。
エチオピアはコントラストの国。聖と俗。誇り高さと貧しさ。はにかみと攻撃性。
肥沃と乾燥。キリスト教とイスラム教。
そしてエチオピアはアフリカの万華鏡。見る角度によってドラマティックに姿を変えそのどれもが鮮烈な印象を残す。
偉大なる天の邪鬼エチオピアを知ることで、アフリカの奥深さがわかる。
チャンスがあれば、ぜひ一度体験してみてください。ノミには十分気をつけてね。
(P.S)申し訳ありませんが、家の引っ越しのために少しの間ブログをお休みすることになりそうです。6月上旬には再開したいと思いますので、お待ちくださいね!
by rollingrock
| 2010-05-19 00:16
| アフリカを歩く